top of page
スクリーンショット (1)_edited.jpg

あさつなぎ

十田撓子

夜めざめる
ねむっていた鵺が
とぉく とぉく
啼きはじめる

まだかたく閉じられた
赤い実のなる
樹の下では
なにも起こらない

なにかは反復される
にじんだ明るい灰色の
足跡を残して
かれと、彼女は緑に溶ける

見えないおそれ
ふるえを
疵口から滴らせて
野に帰っていく

人食い熊が足跡に
ちょうど柄杓一杯の
水をそそぐ

おかえりなさい
あなたの夢の跡を
いたわる熊が
止め足する

 

最終1集9面23日修正_20241223_page-0001_edited.jpg

星まつり

十田撓子

かれらは、円く置かれた石の下に

眠っていると云う

いいえ

 

光をもつ星々、もたない星々

 

見晴るかす山から

稜線のふちどる横顔が

暗い波になっておりてくる

 

台地が青く横たわる

そのときまで

見覚えのない広がりとの

対話がおわるまで

 

光をもつ星々、もたない星々

 

冬至二週間前から

狼の白い太陽がのぼるまで

昼はカーテンを閉じて

夜を待ってカーテンを開けよう

 

かれらはそれぞれの眠りについている

いいえ

かれらは、消えない星々を石で描く

月曜日の朝に

十田撓子

月曜日の前に

私たちはきっと忘れてしまうから

この年の初々しさと

青葉のみずみずしさを

深く吸い込んでおきたい

 

明日は月曜日

ドアを開けたら

そこからもう夏がはじまる

柔らかな色の、柔らかな布地に

まだ包まれていたいのに

 

何をまとうの

もっともっとまばゆくなっていく光に

赤だ、黒だ、青だ、と

かっきりした色に染まっていくのだから

今は両腕で自分を抱きしめておこう

 

あなたと二人

窓を開けて、風にそよぐカーテンの

やさしい日陰の内側で

どこからか舞い込んだ白い花の

かけらを拾って、並べて過ごそう

 

急に黙ってしまう癖のあるあなたが

私の手をとって

手ではない何かを見つめている

Words a Drop
Tohko Toda

十田撓子|ことば、ひとしずく​

Connect Through Poetry

Welcome to join our community. Follow us on stand.fm, Instagram, and X for the latest news, podcast episodes, and events.

  • square
  • Youtube
  • s-1024x1024_v-fs_webp_134f1096-f03a-4cef-b3b0-dd0f2ffefa67_small
  • X

 

© 2025 Tohko Toda  All rights reserved.

 

お問合せ・ご依頼

Please contact us for inquiries or requests.

bottom of page